2012年7月22日日曜日

商品をサービス化するという発想(『次世代コミュニケーションプランニング』を読んで)

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次世代コミュニケーションプランニング
高広 伯彦
ソフトバンククリエイティブ
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遅れ馳せながら、高広伯彦さんの
「次世代コミュニケーションプランニング」
を読みました。

アマゾンのレビューの中に、
この本のことを、
「コミュニケーションプランニング(再)入門」、
あるいは、「高広伯彦入門」と
表現している人がいましたが、
なかなかしっくりくる表現だと思います。

高広さんのことを、
ブログやTwitterでフォローし、
セミナーやアドタイの連載も
チェックしている自分としては、
期待が大きすぎるせいかやや物足りない感もあり、
5章の「コンテクストプランニング」については
もっと深く読んでみたいと感じました。

とはいえ、読み終えると、
やはりドッグイヤーだらけでした。

そんな中でも特に心に響いたのは
次の一文です。

ソーシャルメディアの時代には、
ユーザーを囲い込むのではなく、
ユーザー自身が作っている
コミュニティに入っていき、
いかに企業側がユーザーに
「囲い込まれる」かが鍵になってくる。

これはすごく納得で、
最近の優れたコミュニケーション事例を見ると、
「囲い込まれる」という表現が
非常に的を射ているように感じます。

また、この本の中では、
著者が実際に携わった事例が
多く紹介されていますが、
その中でも、個人的に一番のお気に入りは、
「花王ヘルシア 12週間健康チャレンジ」です。

この企画については、
キャンペーンが始まった当初から、
あまり派手さはないけど、
コミュニケーションプランニングという意味では、
飛びぬけて秀逸だなぁと思っていました。

その企画が生まれる上で
ベースとなった考え方が
この本の中で紹介されています。

買い手側が期待する「価値」に対して、
「商品」はそれを満たしているか、
満たしていないならば
アドオンする必要があるかと考えてみる。
(中略)
この「期待される価値」の足りない部分を
補うというのが「商品のサービス化」という発想であり、
これを具現化するものとして「メディア作り」がある。

一見するとこの事例は、
単にソーシャルメディアの活用事例と
捉えられるかもしれませんが、
その根底にあったのは、
「商品をサービス化する」という発想です。

ヘルシアの場合、
「期待される価値」とは、
「脂肪の燃焼=肥満の解消」ですが、
「商品」だけでそれを完全に満たすことはできません。
そこで、体重、体脂肪や運動の記録を付けたり、
友達とその状況をシェアすることができる
「サービス」を作り出したのです。

そうすることで、ユーザーに
うまく「囲い込まれる」ことに
成功しています。

この考え方は、
他にもいろいろと
応用が可能な考え方ではないでしょうか。

広告(コミュニケーション)の力で
「商品をサービス化する」というのは
比較的新しい発想だと思いますし、
今後広告会社に期待される
大きな役割の一つになるかもしれません。

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2012年7月15日日曜日

無知の知は力なり

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突然ですが、僕が好きな言葉のひとつに、
「知は力なり」という有名な言葉があります。

ベーコンという哲学者の言葉で、
ここでいう「知」とは、
「知識」のことです。

広告会社の仕事は、まさに、
様々な知識が必要とされ、
この言葉の意味を日々実感しています。

一方で、もう一つ大事にしている言葉があって、
それは、「無知の知」という言葉です。

これは、ソクラテスの言葉で、
以下、Wikipediaからの引用です。

ソクラテスは当時、
知恵者と評判の人物との対話を通して、
自分の知識が完全ではない事に気がついている、
言い換えれば無知である事を知っている点において、
知恵者と自認する相手より僅かに優れていると考えた。
また知らない事を知っていると考えるよりも、
知らない事は知らないと考える方が優れている、
とも考えた。

自分でも実感していることですが、
入社して年を重ねるごとに、
「知らない」ということを認めることへの
抵抗感は、どんどん増してきます。

そうなると、
「知ったか」というのが現れて、
これは他人の目からすると、
いかにも哀れだし、何より、
自己成長を全くもたらさない。

だから、「無知の知」という言葉は
大事にしたいなぁと考えているし、
「無知」を自覚したら、
出来るだけそれを「知(=力)」に
変える努力をしたいなぁと思っています。


前置きが長くなりましたが、
自分は「経済」というものに対して
あまりにも「無知」だと思うので、
この本「経済ってそういうことだったのか会議」
を読んでみました。

竹中平蔵さんと元電通の佐藤雅彦さんによる
経済のベーシックな部分を
テーマにした対談本です。

個人的に印象に残ったのは、
「なぜ日本人は会社への所属意識が高いのか」とか、
「人頭税の方がいいんじゃないか」とか、
「どうやってドルは基軸通貨になれたのか」とか、
「日本は川下から始めたからよかったのか」とか、
「エコノミクスって共同体のあり方ってことか」とか。

10年以上前の本ですが、
僕のように経済に無知な人にとっては、
タイトルにある通り、
「経済ってそういうことだったのか」
って、感じると思います。

経済ってそういうことだったのか会議 (日経ビジネス人文庫)
佐藤 雅彦 竹中 平蔵
日本経済新聞社
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2012年7月8日日曜日

広告人が実践すべき「Think Small」の法則(『Think Simple』を読んで)

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Think Simple―アップルを生みだす熱狂的哲学
ケン・シーガル
NHK出版
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スティーブ・ジョブズのもとでアップルの
クリエイティブディレクターを務めていた
ケン・シーガルが書いたこの本には、
多くの広告人にとって、
教訓となるような話が多く含まれています。

その中でも個人的に特に印象に残っている
箇所を紹介します。
それは、「Think Small」という章の中の
「少人数の法則」という話です。

今私がいる九州支社に異動してからは
そんなことはなくなりましたが、
私が本社にいたときには、
参加者が10人を超すような会議が
しばしばありました。

時にはそれが本当に必要なこともありましたが、
「あぁ、今日は何もまとまりそうにないなぁ・・・」
と思うことも少なくなかった気がします。

筆者はこのことについて、
次のように述べています。

広告の世界における長年の経験から、
私は次の科学的法則をまとめることに成功した。
プロジェクトの成果の質は、
そこにかかわる人間の多さに反比例する。

ちなみに、
単に人数が少なければいいのではなく、
「有能な少人数のグループ」であることが
重要であると繰り返し強調されてあります。

また、上記の法則と併せて、
もう一つ重要な原則が紹介されています。

プロジェクトの成果の質は、
最終的な意思決定者がかかわる程度に比例する。

つまり、「最終的な意思決定者」が
プロジェクトの過程にしっかりと
関与することが大切だということです。

通常日本では、広告の仕事において、
最終的な意思決定者が
プロジェクトの過程に関与することは
非常に稀なことです。

広告主の担当者と打ち合わせを重ね、
それに対して、
広告主の社長だったり広告部長だったりが
最終的な判断を行うというのが
通常の流れだと言えるでしょう。

しかし、アップルでは、
CEOのジョブズ自身が、
マーケティングのプロジェクトに
大いに関与しています。

先週ブログに書いた
「愛されるアイデアの作り方」でも、
最終的な意思決定者である鹿毛さん自身が
プロジェクトの初期段階から
大きく関与していることがわかります。

そう考えると、
この原則が正しいということも
十分に頷けます。

広告主側の「最終的な意思決定者」が
プロジェクトにかかわる程度が低いことは
よくあることですが、下手をすると、
広告会社側の「最終的な意思決定者」の
かかわる程度が低いこともたまにあります。

プレゼンの前日になって
広告会社の「最終的な意思決定者」が
急に現れて、企画書を見るや、
これまでの打ち合わせをふいにするような
「アドバイス」を行い、
企画内容が変わってしまうような
経験をしたことが何度かあります。

恐らく、同じような経験をされた
ことがある方も少なくないと思います。

言うまでもなく、そのような競合プレでは、
勝利したことが一度もありません。

「最終的な意思決定者」は、
最初からプロジェクトにしっかり関与するべきだし、
逆に言うと、
しっかりプロジェクトに関与できていない人間は
「最終的な意思決定者」であるべきではない
とも言えます。


最後に、この本からもう一つだけ、
広告人が教訓として心に刻むべき箇所を
紹介させて下さい。
それは、「Think Human」という章に書かれています。

アップルは初代のiPodを説明するのに、
5ギガバイトのドライブを搭載した、
重さ185グラムの音楽プレーヤーとは言わなかった。
シンプルに「1000曲をポケットに」と言っただけだ。
これが人間のコミュニケーションのとり方だ。
(中略)
人と結びつく最良の方法は、
物事を説明するときに、
人が日常会話で使う言葉で話すことなのだ。

これは、多くの広告人が、
ハッとする話ではないでしょうか。


Simplicity is the ultimate sophistication.

レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉であり、
1977年にアップルが「AppleⅡ」のパンフレットに
キャッチコピーとして使った言葉です。

アップルのマーケティングの強さの秘密は、
まさにここにあるのだと実感しました。

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2012年7月1日日曜日

『愛されるアイデアのつくり方』は、広告人必読の本だと思う。

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愛されるアイデアのつくり方
鹿毛康司
WAVE出版 (2012-05-08)
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素晴らしい本に出会いました。

読み終えた後、
1人でスタンディングオベーションを
送りたくなるような、
そんな読後感です。

タイトルからは、
ありがちなHow to本を
想像する人もいるかもしれませんが、
この本には、ドラマがあり、心動かされ、
これほどまでに「素直に」書かれた本は、
本当に珍しいと思います。

ビジネス書なのに、
途中で泪が出そうになる本です。


広告に携わる人間が
よく口にする言葉、「ブランド」。
「ブランド」や「ブランディング」に関する
本はいろいろ読んできたので、
「ブランド」とは何か、
頭では理解しているつもりですが、
この本を読んで、初めて、
心でそれを感じることができた気がします。

この本の中では、
「愛されるアイデア」を生み出す方法が
様々書かれています。
ただ、そこには明確に書かれていないのだけど、
この本を読んで強く感じたことがあります。

それは、
この著者が「愛されるアイデア」
生み出すことができるのは、
誰よりも自社の「ブランド」を愛し、
「お客様」を愛し、そして、
「仲間」を愛しているからだ、
ということです。

広告会社の人間なら、
こう自問するべきでしょう。

・担当している広告主のブランドを愛しているか?
・担当している広告主のお客様を愛しているか?
・自分の仲間を愛しているか?

もし答えがNOなら、
愛されるアイデアなど生まれるはずが
無いのだと痛感しました。

ここでいう「愛している」が、
どういうことを意味するのかは、
この本を読めば感じとってもらえると思います。


以下、引用。

エステーは、意表をついてびっくりさせるのを
狙っていると言う人がいる。
よくわかっていない人ほどそういうコメントで
かたづけようとする。しかし、
僕は決して「意表をつく」ことを目的としたり、
それを狙っているわけではない。
(中略)
ブランドはみんなのもの―。
この信念こそが「愛されるアイデア」を
生み出す糧となったのだ。


心から「広告」という仕事に
関わるつもりがあるのであれば、
読んでおかなければいけない
一冊だと思いました。

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