2012年8月26日日曜日

ヒットを生んだ企業が注目した“ハッスル”とは?(『ザ・ディマンド』を読んで)

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ザ・ディマンド 爆発的ヒットを生む需要創出術
エイドリアン・J・スライウォツキー カール・ウェバー
日本経済新聞出版社
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■「ドラッカーの再来」が書いた本 

この本は、「ドラッカーの再来」とも称される
エイドリアン・J・スライウォツキー氏が
「爆発的ヒットを生む需要創出術」について
書いた本です。

成功している世界の様々な製品・サービスについて、
それがいかにして人々の需要を創出してきたのか、
ストーリー感のある豊富な事例とともに書かれており、
「ガイアの夜明け」や「カンブリア宮殿」が好きな人なら、
非常に楽しめる一冊だと思います。

まず、この本では、
ディマンド(需要)を創出する上で必要なスキルとして、
以下6つのキーワードを掲げています。

①マグネティック ― 機能面と情緒面の「魅力」が需要を生み出す
②ハッスル・マップ ― 時間とお金をムダにする「欠点」を明らかにする
③バックストーリー ― 「見えない要素」で魅力を強化する
④トリガー ― 人々を「夢中」にさせ、購買の決断を下してもらう
⑤トラジェクトリー ― 魅力を「進化」させ、新しい需要層を掘り起こす
⑥バリエーション ― 「コスト効率の高い製品多様化」を図る

読む人によって、
これらのどの部分に強い関心を示すかは
まちまちだと思いますが、
私が特に注目したのは、
「ハッスル・マップ(Hassle Map)」というワードです。


■「ハッスル」を明らかにする 

「Hassle」という単語は、
日本の英和辞典だと「けんか、口論」などと
訳されていることが多いですが、
英英辞書で意味を見てみると、
「面倒、煩わしさ、不快」という言葉がしっくりきます。

そして、この本が言う「ハッスル」とは、
「顧客体験のなかに隠れている失望感、不便さ、
複雑さ、潜在的な厄介事の数々」のことで、
ハッスル・マップとは、
「それがどこに隠れているのかを示したもの」
といったような意味です。

著者はこう述べています。

ハッスル・マップは
頭の中にしまっておいてもいいし、
顧客のハッスルを実際に地図のように
書き出してもかまわない。
ディマンド創出をきわめたいなら、
役に立ちたいと思う顧客のハッスル・マップを
作成することがなにより有益だ。

この本を読むと、
成功している企業の多くは、
このハッスル・マップを明らかにすることに
相当な時間と労力を注ぎ込んでいることがわかります。

顧客の「ハッスル」を見つけ出すためには、
徹底した顧客との対話が不可欠です。
さらに、ハッスルは、
潜在レベルのものまでも浮き彫りにすることが重要で、
そのためには、顧客と心から向き合い、
顧客目線で物事を見つめる必要があるでしょう。

本書に登場する「ディマンド・クリエイター」の一人、
ネスレのヘンク・クワクマンは、
次のような発言をしています。

「問題が見つかるということは、
ビジネスが見つかるということだ」

ここで言う「問題」とは、
もちろん「ハッスル」のことです。


■「ハッスル」から「トリガー」へ 

ハッスルを理解することで何が起こるのかと言うと、
それは、もう一つのキーワードでもある
「トリガー」を見つけ出すことにつながるのです。

トリガーとは、
「様子見の人を顧客に転じさせるなにか」

コンセプトは共感されながらも、
なかなか普及しなかった「カーシェアリング」を
一気に広めたアメリカのジップカーにとって、
トリガーとなったのは、
「密度(家の近くにすぐ乗れる車があること)」でした。

ソニーが失敗したアメリカの電子書籍市場で、
キンドルを成功に導いたトリガーは、
「書籍への瞬間的なアクセス」でした。

ネットフリックス(TSUTAYA DISCASのようなもの)の
ディマンドを一気に加熱させたトリガーは、
「配達速度」でした。

この本を読めばよくわかりますが、いずれも、
顧客のハッスルを全力で理解しようとした結果、
見つけ出すことができた「トリガー」なのです。


製品やサービスを提供する企業、
あるいは、私たち広告会社の人間にとっては、
「顧客のニーズを理解する」という考え方のほうが
一般的だと思います。

しかし、この本で紹介されている
「顧客のハッスルを明らかにする」
→「トリガーを見つけ出す」
→「ディマンドを創出する」
という考え方も、ぜひ日頃から、
意識しておきたいことの一つだと感じました。


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